相続税、贈与税

空き家を相続しました。売るべきか、住むべきか、それが問題!


一人暮らしのおば様が亡くなり、土地家屋が相続財産に含まれています。

 最近お子様がいらっしゃらないおば様を亡くされた方からご相談を受けました。ご主人は既に亡くなっていて、おば様は一人暮らしでご自分名義の一戸建てのお宅に亡くなるまで住んでいらっしゃったと言うことでした。写真を拝見すると築後40年近くとは思えない立派なお宅ですが、1981年に施行されたいわゆる新耐震基準は満たしていません。相続人は甥姪にあたる6人の方達と言うことで、手続上戸籍謄本の入手の入手に手間がかかるケースですが、相続後にこの土地と家屋を売却する場合と、相続人のどなたかがこの家に住む場合と、税務上どのような点に注意する必要があるのでしょうか?

「空き家問題」と固定資産税

 近頃「空き家問題」をどう解消していくかと言う話があちこちから聞こえてきます。確かに管理されずに空き家が放置されていた場合には保安上・治安上の問題が考えられ、近隣の住民の方々としては改修して住むか、取り壊してもらいたいと考えていられると思います。

  ところが、固定資産税との関係では、空き家であってもその敷地は住宅用地とみなされて評価額が6分の1に減額されるため、家屋の固定資産税を払ったとしても、取り壊さない方が有利となる場合が多いと考えられます。そこで平成27年度の税制改正で、一定の状態にある(倒壊のおそれがある、衛生上有害、等です)空き家については、その敷地については住宅用地の特例を適用しないこととなったため、固定資産税が最大6倍になる可能性があります。所有者が取り壊すか、きちんと管理することを促す措置と考えられます。

「空き家にかかる譲渡所得の特別控除」

 さらに平成28年度の税制改正では、一人住まいの方が亡くなって空き屋になった家屋(旧耐震基準に基づいて建築されたもので、マンションは除く)とその敷地の両方を相続した人が、新耐震基準を満たすように改築するか、取り壊すかして土地ごと売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できるという特例が創設されました。この特例には大まかに次の様な要件もあり、利用を考える際はそれぞれが満たされているかどうか十分に注意する必要があります。

- 相続の時から3年後の年の12月31日まで、かつ平成31年12月31日までに譲渡すること。

- 売買代金が1億円以下であること。

- 相続の時から譲渡の時まで、誰も居住せず、またたとえ無償であっても貸し付けたり、事業用として使っていないこと。

 複数の相続人が家屋と敷地を相続して、異なる時期に売却した場合の適用関係等、細かく見ていくと注意しなければならないポイントがかなりあります。ご相談を受けたケースでは、売却するかどうかはまだ検討中とのことでしたが、もし売却するのであればこの特例を利用できるように慎重に検討していただきたいと思います。

 因みに写真のケージはご覧のように空き家ではありませんが、「簡にして要」にまとめられた一冊を感心して見つめている図です。

 

 

 

 

 

 

「居住用財産の3,000万円の特別控除」との違い

 相続で取得した場合ではなく、自己所有の不動産の場合に適用できる「居住用財産の3,000万円の特別控除」はご存じの方も多い特例ではないかと思います。自分が居住していた家屋を、住まなくなってから3年後の12月31日までに売った場合に売却益から3,000万円を控除できる特例です。敷地の売却益にも適用できるのですが、家屋を取り壊して売る場合は、取り壊しから1年以内に売買契約を締結する必要があります。さらに取り壊してから売却までの期間にその土地を駐車場等として貸し付けたりすると適用出来なくなります。ところが取り壊す前ならば、住まなくなった家を貸していても良いということになっていて、ちょっと混乱しそうですね。

 

 

 では、相続人のどなたかがこの家を引き継いで住むことにした場合はどうでしょうか?ご相談のケースでは、相続人の内のお一人でずっと賃貸住宅にお住まいの方が、この家に引っ越しすることも考えていらっしゃるようでした。そういった場合に土地の相続税評価額を減額できる特例が使えるかも知れません。

「家なき子」の「小規模宅地等の減額特例」

この特例は被相続人の居住用の宅地等について、一定の要件を満たすと330㎡までの評価額を80%減額できるというもので、相続直前の3年以内に本人か配偶者が所有する家屋に住んでいなかった相続人(一般に「家なき子」(!)と呼ばれています)がその宅地を相続する際に適用できるものです。

この特例の場合には、「相続開始の直前に被相続人に配偶者がなく、同居している法定相続人がいないこと」という要件があって、一見「空き家」控除と同じ条件かと思われますが、法定相続人でない人(例えばお子さんが健在の場合のお孫さん)と同居していてもこの要件は満たすことになります。「空き家」控除の場合は本当に一人暮らしの場合にだけ適用があり、同居人がいた場合には不適用となります。「空き家」の荒廃を抑制する趣旨であれば、同居人がいる場合にも税制上の優遇をあたえることは難しいのでしょう。

 また、「家なき子」の人は、相続開始時から相続税の申告期限(10ヶ月後)まで宅地等所有していることも要件になっているのですが、その間は居住しても良いし、賃貸していても良いのです

さらに申告期限を過ぎてから売却する場合に、「空き家」控除の要件を満たせば、売却益から最高3,000万円の控除も可能です。お気づきのようにその場合に居住・賃貸等をしていると、今度は「空き家」の要件を満たさなくなってしまいます

これらの政策的な優遇措置はそれぞれの目的に適合するように要件が定められていて、それぞれの要件が一致している保証はありません。くれぐれも慎重にご検討いただきたいと思います。