保険税務

「冬芽の人」 えっ?トンチン年金?

2017.05.05|保険税務

鈴木京香さん主演の「冬芽の人」を見ました。

「冬芽の人」結末ネタバレ

4月5日に大沢在昌サスペンス「冬芽の人」をご覧になった方も多いと思いますが、その終盤で田中泯さんが演じる奥畑洋介と言う怪物的人物が登場し、事件の真相をすべて語るシーンがありました。この人物は奥会津の人里離れた山奥の廃村に一人で住みながら、二人の弟を手足の如く操って犯罪を重ねて来たのでした。実は40年ほど前にこの村の人々が耕作していた田畑がダムの底に沈むことになって5軒の農家に高額な補償金が支払われました。奥畑洋介はその補償金について、身寄りのない老人は面倒をみてもらうかわりに死んだら財産を残りの家に分け与える、という一種の相互扶助の取り決めを作り、資金の運用についても的確に指示を与えて来ました。その一方で取り決めを破って老人ホームに入ろうとした夫婦を殺害したのを初めに、次々と殺人の指示を出して弟たちに実行させていたのでした。

大沢在昌さんはトンチン年金をご存じだったのでしょうか?

このクライマックス・シーンで全ての真相が明らかになり、その後のアクションも実に見物だったのですが、私の頭には「トンチン年金」というキーワードが浮かんでしまって、画面に対する集中が散漫になりそうでした。トンチン年金とは17世紀にイタリアの銀行家ロレンツォ・トンチが考案したプランで、拠出した基金の運用益を生存者が分け合う制度のため長く生きる人ほど受取額が多くなり、最後まで生きた人は基金の残額を受取るというものです。もともとはトンティ(Tonti)さんなのに、日本では正式名称としてトンチンと言ってしまうのが(「ベアトリ姐ちゃん」のようで)なかなかすごいと思いますが、これならば一度聞いたら忘れないで済みます。死亡した人の持分が生存している人に移ることで、生存者がより多くの給付を受けることになる割合をトンチン性と言いますが、最近トンチン性の高い年金が生命保険会社から売り出されたと聞いてすぐに記憶がよみがえりました。

なぜ今トンチン年金が注目されているのでしょうか?

日本生命の低解約払戻金型保険のパンフレットでは、年金開始日前の死亡払戻金を支払った累計保険料よりも小さくして生存者年金原資を大きくする仕組みと説明されています。つまり年金開始日前に亡くなった人の払い込んだ保険料も、生存して年金を受け取る人の原資に含まれる結果となるのです。長生きした人が得をするという意味で射幸性が高いとも考えられていた仕組みですが、男性でも約5人に1人が90歳まで生存する時代に、生存者の年金原資が大きくなるように設計されて、長生きするほど年金累計額が大きくなる終身年金は、十分に社会的ニーズがあるため商品化されたものなのでしょう。

トンチン年金の税務

私が参考にしている日本生命のパンフレットによれば、この商品の年金の契約形態や受取り方には様々なバリエーションがあって、それぞれ税務上の取り扱いが異なる可能性があります。その中で代表的なものについて考えてみましょう。

契約者=被保険者=年金受取人(保証期間付終身年金の場合)

毎年受取る年金は雑所得

雑所得の金額は次のように計算されます。数式ばかりで恐縮です。

雑所得の金額=総収入金額①-必要経費②

総収入金額①=同一年内に受取る年金額 + 配当金額

必要経費②=同一年内に受取る年金額 × {払込保険料総額 ÷ 年金受取総額(又は見込額)③}

年金受取総額(又は見込額)③=年金年額 ×(被保険者の年金開始年齢時点の余命年数(※)と保証期間年数のいずれか長い年数)

※:各年齢における余命年数は「所得税法施行令 別表 余命年数表」に定められています。

例えば、年金額60万円、5年保証付終身年金、払込保険料総額1,080万円、年金開始時の被保険者(男性)の年齢70歳、70歳男性の余命年数12年という条件の契約の場合の各年の雑所得の計算は次の通りです。

年金受取総額又は見込み額:60万円 × 12年=720万円(∵12年の余命年数>5年の保証期間)

雑所得の金額:60万円 -60万円 × 1,080万円 ÷ 720万円=60万円-60万円 × 1.50<0

パンフレットの計算例の数字を少し変えてみたものですが、このケースでは余命年数で亡くなった場合には受取れる年金受取総額が支払った保険料総額に満たないため、雑所得の金額は赤字になって所得税がかからない結果になっています。そして平均余命を超えて生存して年金を受取る場合も同様に計算します。

契約者(保険料負担者)≠ 被保険者=年金受取人

年金受取開始時に贈与税課税

このパターンは、保険料負担者(例えばご主人)から年金受取人(例えば奥さん)に財産が移転しますので、年金の受取が始まったタイミングで年金を受取る権利(年金受給権)に対して贈与税が課税されます。課税価額は次の①~③のうち一番大きい金額です。①解約払戻金(この商品は年金開始後は解約できないので検討不要)、②年金に代えて受取ることができる一時金(かなり低いようです)、③(年金額)×(予定利率による、被保険者の年金開始時の(厚生労働省の定める)平均余命に応ずる複利年金現価率)(計算は複雑ですがこれが一番大きくなりそうです)。

いずれにせよ、契約している生命保険会社から情報を提供してもらわないと申告も難しいですね。

毎年受取る年金はやはり雑所得

毎年受取る年金は雑所得になりますが、この年金はすでに贈与税を課税された受給権に基づくもので、年金に含まれていると考えられる金利部分以外は、所得税を課税されたらば二重課税になってしまいます。その為、上の受給権評価額(例えば③)を、年金開始時点の所得税法施行令に規定されている余命年数に年金額を掛けた金額で割った率(相続税評価割合)を算出し、その率に応じて課税割合が定められていて、相続税評価割合が大きくなるほど課税割合が低くなり、98%を超えていれば所得税は掛からなくなります。所得税法施行令ベースの余命年数と、受給権の評価に使われる厚生労働省の定める平均余命を比較すると、どの年齢でも所得税法施行令ベースの方が短くなっており、相続税評価割合はそれによっても高く算出される傾向があります。

契約者(保険料負担者)は当初の年金受取人、被保険者は契約者死亡後に年金受取人となる

保険料負担者(例えばご主人)が存命中は年金を受取り、相続が発生したのちは被保険者(例えば奥さん)が引継いで年金を受取る、という場合の税務はある意味で上の二つのパターンの組合せになります。

ご主人が毎年受取る年金は雑所得

年金開始後に相続が発生した場合はその時点での年金受給権に対して相続税の課税

その後妻が毎年受取る年金は雑所得だが、相続税評価割合に応じて課税割合が定まり、98%超は課税されない。

その他にも色々な受給方法があるようですので、もしご興味があれば事前に税務上の取扱いを税理士等にご確認ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


2017.05.05|保険税務